2015年11月
写真は、先日のUSSAコーチシンポジウムに参加したとき、撮影したものです。
このとき、カッパーマウンテンはゲート練習用に2コースが空いているだけでした。
ここはそのうちの、メインのトレーニングコースです。通常は上下に分け、各3セット、合計6チームが練習を行うのですが、 このときは、USナショナルチーム(USST)が上下通して3セット、独占して使用していました。
わかりづらいですが、スタート地点に、多くのスタッフと選手。
女子スピード系チーム、男子ヨーロッパカップチーム、それとウェイティングに相当する、ナショナルトレーニングチーム(NTG)が練習を行っていました。
USSTは他にも、U16がトレーニングを行っていました。
なんか、うらやましくなってきて、仕方がありませんでした。
今のSAJは、一つのチームをまともに組むこともできません。
しかし、同時に、僕の脳裏にある光景が浮かび上がってきました。
それは、1991年だったでしょうか、全日本女子チームの手伝いとして、オレゴン・Mt Hoodに行った時のことです。
このとき、Hoodでは、岡部選手率いる男子SLチーム、男子DHチーム、そして女子チームがそろい踏みし、合宿を行ったのでした(男子SLはすぐに移動したように記憶しますが)。
写真のUSSTように、JAPANチームがコースを3レーン使用、選手もたくさんいました。
壮観でした。
あれは開催決定前でしたが、長野オリンピックまで、日本も、そのようにナショナルチームを編成していたのです。
バブルや長野オリンピックのおかげと片付けてはいけません。
今の在り方は、あまりに異常です。
「いつの日かまた、あの光景を見たい」、心からそう思いました。
オリンピックでのメダルが目標です。
しかし、そのためにも、我々は、まず、本当のチームを復活させなければなりません。
10月14日の「Inside-outの組織を目指して」と題してのブログでは、あまりその意味を説明することができませんでした。ずいぶんと時間が経ってしまいましたが、改めて、Inside-outの組織とはどのような組織を指すのか、考えてみたいと思います。
「Brand-oriented」と併せて、この言葉を組織に対して適用したのは、スウェーデンの経営学者Urde(なんと発音するのかわからないので、このまま表記します)だと思われます。Urdeは、経営学の泰斗ドラッカーやマーケティング・グルといわれるコトラーが主唱してきたそれまでのマーケティングの概念に、一石を投じたのでした*1。
ドラッカーは「マーケティングは営業を不要にする」と述べています。コトラーは、マーケティングを「顧客のニーズに応えて利益を上げること」と定義しています。つまり、二人とも、顧客を満足させることこそがマーケティングの目的であり、その先にあるのが、顧客満足を通しての、売上げの向上であり、組織や製品のブランドの確立であるとしています。これは、現在の営利組織の経営においては支配的なマーケティングの考え方といえるでしょう。
Urdeは、このマーケティング論理で行けば、顧客満足こそが組織の最大の目的となり(Market-oriented)、その組織の行動は、組織の外にある、顧客の意向に大きく影響される、つまり「Outside-in」の組織になってしまうというのです。
しかし、そこに、何の問題があるのでしょうか?
Market-orientedの組織では、短期的な顧客のニーズを充足させることや市場の獲得に焦点を合わせることが重要となり、「我々は何をするための組織なのか」、つまり、組織としてのミッションが重要ではなくなってきます。そして、その結果として、ステイクホルダーの中で、ミッションをベースにした、組織のアイデンティティが構築できなくなり、ひいては、組織の長期的なブランドの構築が難しくなってくるというのです。
競技本部がJSCやJOCからの助成に大きく依存している現状では、競技本部の最大の顧客はJSCやJOCであり、この顧客の意向(8年後12年後のオリンピックより何より、次のオリンピック)によって動かざる得をない、Outside-inの組織になってしまっているのが、現在の競技本部であり、このことによって、負のスパイラルに陥っているのが、アルペン部なのではないでしょうか。
では、逆に、Brand-orientedの組織とは、どんな組織なのでしょう。
Urdeによると、顧客満足を高め、顧客からの反応に対応して(Outside-in)ブランドを構築していくMarket-orientedとは対照的に、Brand-orientedの組織では、組織の存在価値からミッションを定め、ミッションにもとづき目標を掲げ(ビジョン)、目標達成のために組織の価値観(バリュー)に基づいて、組織が行動する。そして、この組織の行動をとおしてブランドが作り上げられる。つまり、Inside-outの組織なのです。
私は、競技本部はBrand-orientedでありInside-outの組織にならなくはならないと強く考えます*2。なぜなら、競技本部は、その存在自体が、組織の外ではなく、内部のボランティアから成り立っているからです。
ちょっと、ややこしいかもしれませんが、アルペンで考えてみましょう。
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選手強化を担っているのはコーチです。SAJが雇用する有給コーチなどわずかです。選手強化の屋台骨を支えているのは、地域で地道な活動を続けるボランティアコーチ達です。
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スキーを競技スポーツたらしめている、大会を支えているのは、地域のスキークラブであり、無数のそのボランティア役員です。
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そして、このコーチやボランティアを突き動かしているのは、選手達への思いです。選手達は様々な目標や目的を持ちながら、ボランタリーに競技スキーに取り組んでいます。
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そして、選手を物心両面で支えるのが、その保護者です。
選手とその保護者、コーチ、ボランティア役員、どれ一つ欠けても、競技としてのアルペンスキーは成り立ちません。私は、いわば、これらアルペン部のステイクホルダーが、アルペン部と「思い」を同じにすることによって、はじめて、アルペン部が活性化されると考えます。オリンピックの成績は,その先にあるのです。
競技成績による助成金の傾斜配分の傾向が強くなったこの10年ほどの間に、SAJはその目を、選手やコーチ・ボランティアから、外に向けっぱなしになったのではないでしょうか。
結果として、選手やコーチ・ボランティアから「我々は、○○ために頑張る!」という強い意思を奪い、逆に「我々は、なんのためにやっているのか?」との不信感を募らせることになったのではないかと、強く危惧しています。
ところで、アルペン部の「思い」とは、何なのでしょうか。SAJの目標は何なのでしょう?
9月15日のブログにも書いたとおり、実は、それがあまりはっきりしません。
強化費が潤沢にあり、また、企業が強化を支えてくれていたときは、このことをあまり意識する必要はなかったのかもしれません。
しかし、いま、我々には、はっきりとした共通認識が必要なのです。それは、ビジョンやミッションと置き換えられるでしょう。その共通認識を元に、皆が活動を継続することが、重要なのです。
その点、8月26日に紹介した、USSA(アメリカスキー&スノーボード連盟)のビジョンとミッションはなんと明快なことでしょう。
ビジョン
“The vision of
the USSA is to make the United States of America the best in the world in
Olympic skiing and snowboarding.”
「USSAのビジョンは、アメリカ合衆国をオリンピックのスキーとスノーボード競技において、世界最強の国にすることです。」
ミッション
“The mission of
the USSA is to provide strong leadership that establishes and supports athletic
excellence in accordance with USSA core values.”
「USSAは、その価値観に沿って、競技の卓越性の確立とその支援のために、強力なリーダーシップを提供することを使命とします。」
USSAは世界のトップを目指しています。しかし、その活動は、草の根からトップまでです。トップアスリート以外を相手にしないことを、全く意味しません。そして、USSAではCEOから地域クラブのコーチまで、「Best In the World」を意識して活動しています。まさしく、Inside-outの組織です。
このことに、私は本当に驚かされました。
アルペン部がInside-outの組織になるためには、予算の独立が必要です。なぜなら、共通認識を浸透させるには、その認識に基づいた様々な地道な“活動”の“継続”が必要だからです。
しかしながら、現在の競技本部の収益構造では、そのように行動することが、許されません。
組織内で許されないなら、別組織を作り、独自財源の確保に努めるしか方法がない、これが、私が考える、アルペン部分離・独立の根拠なのです。
しかし、逆に考えれば、アルペン部にその自由度が与えられるのであれば、独立の必要などありません。
独立も、その自由を与えられるのも、茨の道でしょう。
しかし、今のままよりは、きっと道が拓けるのではないでしょうか。
組織のあり方を、考える時期にあると、思います。
*1:Brand-orientedに関する論文は、その多くはヨーロッパで発行されている学術雑誌に掲載されており、アメリカで発行されている雑誌には見受けられません。したがって、ある種、まだ異端な理論なのかもしれません。しかし、特に、非営利団体のマネジメントを考える際は、大変有効な考え方だと、私は思います。
*2:Brand-orientedとMarket-orientedは、全か無か、ではありません。多くの組織にとっては、その比率(傾向)の問題です。また、一つの組織の中でも、歴史や時代とともに、傾向が変化することはあります。
「Inside-outの組織を目指して」の続きが、書けていません。
またしても、つなぎとして、Facebookと同じものを上げさせてもらいます。
このファンドレイジングに関しても、準備ができ次第、詳しく報告します。
USSAファンドレイジング担当副会長のTrisha Worthingtonさんに、インタビューを行ってきました。
(今回は一人で、緊張した)
一昨年600万ドル弱(約7.2億円)集めた彼女らのチームの、今年の目標は、なんと、1000万ドル(約12億円)。
すごい!またしても、嫌になってしまいます。
しかし、楽に集めているわけではありません。
本当に、すごい努力、選手を巻き込んでの計画的な活動です。
我々も参考にすべきところ、多々あり。
いえ、ばかりです。
ユタに来て以来、お世話になっているTrishaさん。とっても魅力的な、素晴らしい女性です。
前回の続きを書くことがまだできていませんので、つなぎとして、以前FBに上げたものを蔵出しさせて下さい。
シーズンインに際しての、問題提起も兼ねて。
『スポーツ遺伝子は勝者を決めるか?』
この本では、陸上短距離や長距離の結果に大きく影響を与える遺伝子、痛みを感じることに強い遺伝子、トライアスロンなんかの超長時間運動に耐える遺伝子なんかが紹介されています。また、「身体のビッグバン」なんてのも、興味深いです。
しかし、僕が特に興味を引かれた点は、それ以外の研究の紹介でした。
たとえば(長くなります。また、うろ覚えの点もあるので、事実誤認がある場合はお許しを):
1)小学生に短距離競争をさせると、如実にその才能(遺伝子と体型)が結果に表れますね。ここで大人は、「才能あり」と認めた子供に、短距離走に特化したトレーニングを与えます。この子供は、才能を開花させます。しかしながら、その開花時期は非常に短い。この研究では、子供の身体にスピードとリズムに対するプラトーが起きると言っています。頭打ち状態ですね。身体にスピードとリズムが染みついてしまう状態のようです。その上の次元のスピードとリズムに対応できていかないのですね。子供のうちは、様々な距離のトレーニングをさせるべきだと言っています。
スキーはバランスに立脚した技術のスポーツだと思います。いわゆる「器用な子」が、小さい頃は「うまい」と目立つように思います。こういう子供は、ポールを滑らせてもうまい。とくに、SLなんて。しかし、ここでコーチ共々ゲート練習にのめり込んでしまうと、そこで、スピードとリズムのプラトーが起きる危険があると、言えないでしょうか。
全国中学まででSLのみで結果を残した選手は、その後、伸び悩む傾向にあるように、感覚的に思います。こんなことも、関係しているのではないかと、理論の我田引水です。
2)ベッカーやグラフといったテニス界のスーパースターを生み出した世代の、ジュニア期(確か12才ころ)を対象にしてドイツで行われた研究では、その後の世界ランクに影響を与えた2つの要因を挙げています。一つ目は、ジュニア期に正確なリターンを返せること、二つ目に、「なぜこの練習をするの?」とコーチに対して聞けるパーソナリティを持っていたこと。
正確なリターンは、ストロークの基礎技術がしっかりと身についていると言うことでは。そして二つ目は、この頃から考えて、問題意識を持って、練習に取り組んだいたこと、と置き換えることができるのではないでしょうか。
小さい頃は自由奔放に滑っている子供たちに、ある時点から、しっかりとした基礎技術をその理由とともに教えることは大事なのではないでしょうか。そして、それをしっかりと選手とコーチが対話をしながら行うこと。昔、レイクプラシッドのオリンピックセンターで見た、「ティーチするなコーチせよ」的なことが書かれていた壁を思い出します。我田引水です。
(小さいうちから、自由奔放に滑らせていないこともあるかもしれません)
3)世界レベルに達した選手と国内トップにとどまった選手の、ジュニア期からの練習量を比較したデンマークの研究は、また興味深いものがあります。その種目における15才までの練習量は世界レベルに達した選手たちの方が、国内トップにとどまった選手たちより少ないのです。この曲線は15で逆転し、世界レベルに達した選手達の練習量がその後上回ることになります。
これは、様々なことが推察されますね。15才まではいろいろなスポーツを行っていて、トータルで身体能力を高めていたかもしれない。あるいは、国内トップの選手達は、15才までの練習量である種の「バーンアウト」を引き起こしていたかもしれない。
いずれにせよ、大切なのは、15才(日本でいえば高校生)からの練習量と言えるかもしれません。この点、今の日本のアルペンの現状は厳しいものがあります。僕がコーチをしていた20年前は、高校の練習+メーカー遠征+SAJ遠征 がありました。後者二つも、今よりははるかに機会がありました。
アメリカ躍進の原因の一つに、スキーアカデミーの存在があると思います。
スキー場の麓にある学校をベースにした普段の練習+オレゴンや、スイス・チリなどでの海外遠征。それだけお金がかかっていますが、年間の滑走日数はかなりになるのではないでしょうか。それも質が高い。
大雪山、鳥海山、立山や乗鞍の活用を、再び考えるべきかもしれません。
(機関銃に竹槍で向かうもののようにも感じてしまいますが)
なお、この研究3)は、タイム・距離・重さなどによって競われるスポーツを対象にしたものです。スキーなど、技術の比重が大きいスポーツはまた状況が違うかもしれません。だから、我田引水です。
一般化が難しいものを、ついつい、自分がスキーについて普段考えていることに結びつけてしまします。しかしながら、ドンぴゃりと当てはまる研究などないものです。僕は、参考にして、考えるべきだと思います
katokuconn